「翻訳できないことば展」を開こう:ポスターで描く、私とことばの風景

アクティビティのねらい・概要

ねらい

世界には、他の言語に翻訳できないことばがあります。英語の serendipity(思いがけない幸運)、フィンランド語の sisu(逆境の中の粘り強さ)などのことばは、その文化が大切にする考え方そのものをあらわしています。

このアクティビティでは、学生が自分の母語にある「翻訳できないことば」を選び、日本語の語彙を駆使して説明します。そして、そのことばの世界観をポスターのようなかたちで表現し、クラスで「展示会」を開きます。

概要

目標
  • 母語にある文化固有の概念を日本語で説明することができる。
  • 互いの文化・言語への気づきを共有し、複言語への意識を深められる。
  • 短い文章と視覚的なデザインを組み合わせた「ポスター制作」を通して、創作力を養う。
学生の日本語力 中級(B1)以上
その他の言語力

日本語以外の言語でディスカッションをする場合は、教師・学生ともにその言語で中級後半(B2)以上

所要時間

2時間 
おすすめクラス 多様な文化背景の学生が集まるクラスで実施するのがおすすめ。

手順

ロードマップ

1.翻訳できないことばの導入

  • 【教師】以下の本などを参考に、翻訳が難しいことばの例をいくつか紹介します。日本語の「木漏れ日」(葉の隙間から差し込む光)、「なつかしい」(昔訪れた場所や、今はないものについて話す時に感じる気持ち)などを例として挙げ、「なぜこのことばは翻訳が難しいのでしょうか?」と問いかけます。

エラ・フランシス・サンダース『翻訳できない世界のことば』(https://amzn.asia/d/0f9hkW77

2. ことばの選択と調査

  • 【学生】各学生(またはペア)が、自分の母語の中から「翻訳できないことば」を1〜2語選びます。辞書やインターネットも使いながら、そのことばの背景にある文化・状況を調べます。

    ※選びにくい場合は、感情・自然・人間関係・食・時間に関することばを探すよう促すと見つかりやすいです。
  • 【学生】ワークシートを使い、選んだことばを日本語で説明します。一言での翻訳を試みたうえで、「なぜそれでは足りないか」も書きます。
選んだことば Forelsket(ノルウェー語)
無理やり日本語に訳すなら(短く) 「恋に落ちる瞬間の幸福感」
くわしい説明 誰かを好きになったとき、胸がふわっとあたたかくなる、特別な感覚。「好き」という感情が生まれたばかりの、まだ言葉にならない幸せな気持ち。
なぜ翻訳が難しいか 日本語の「恋」「好き」「ときめき」はどれも近いが、「恋に落ちる最初の瞬間だけ」を切り取る一語がない。
そのことばの「風景」を教えてください 初めて会って、なんとなく気になり始めたときの、初々しい空気感。

3. ポスターの作成

  • 【学生】言葉そのものと、上記2. で考えた日本語の説明文を組み合わせます。その言葉のイメージに合う写真や色を配置し、視覚的にもそのニュアンスが伝わるように構成します。

4. 「ことば展」の開催

  • 【学生】完成したポスターをクラスで展示したり、オンラインで公開したりして、お互いの作品を鑑賞します。気になった言葉について、以下のような視点で質問し合います。
    • 価値観を探る:その言葉は、その言語を話す人にとってどんな価値観を大切にしていることを教えてくれますか。
    • 翻訳の工夫:そのニュアンスを日本語にする際、一番工夫した表現はどこですか。
  • 【学生】すべてを見終わったら、以下のような観点から活動を振り返ります。
    • 印象に残ったことば:他の人のポスターを見て、心に残った言葉とその理由を教えてください。
    • 共通点を見つける:他の人のポスターを見て、「自分の母語にも似たことばがある」と気づいたものはありましたか。
    • ことばと文化:「翻訳できないことば」があることは、言語や文化についてどんなことを教えてくれますか。

参考文献

  • エラ・フランシス・サンダース(著)・前田 まゆみ(訳)(2016)『翻訳できない世界のことば』創元社.

こんな先生・活動にお勧めです!
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多様な文化背景の学生が集まるクラスで特におすすめな活動です。「日本語で説明する」ことに焦点を当てることで、語彙力・表現力の向上にもつながります。ポスター制作という創作的な要素があるため、普段の会話活動とは違う形で自己表現が楽しめます。展示会のあとに「あなたが一番気に入ったことばは?」とアンケートを取ると、クラス全体のお気に入りことばランキングができてさらに盛り上がります。