アクティビティのねらい・概要
ねらい
このアクティビティは、メモ取りという通訳トレーニングで使用されるスキルを使って、記憶の保持を助けるためのメモの取り方について学ぶ活動です。
人が覚えられる記憶の容量は限られています。メモを効率的にとることで、記憶容量への負担を減らすことができます。
概要
目標 |
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学生の日本語力 | 初級(A1)以上 |
その他の言語力 | 日本語以外の言語でディスカッションをする場合は、教師・学生ともにその言語で中級後半(B2)以上 |
所要時間 |
30分 |
おすすめクラス | 聞く力を伸ばしたいクラスでおすすめ |
手順
1.メモ取りについてのブレインストーミング
- 【学生】ペア又はグループで、普段、どんなときに、どのようにメモを取っているかを話し合います。また、メモを取るメリットについて話し合います。
- 【教師】クラスの意見をまとめます。
2. メモ取りの説明
- 【教師】通訳トレーニングで使うメモ取りのコツや例を説明します。
【メモ取りのコツ】
- メモはどの言語でとっても良い。
- 頻出語句には記号化・略語を用いる。
- メモ取りのためのメモになってはいけない。あくまでも記憶喚起の補助にすぎないことを意識する。
- 表現形式ではなく、文の構造(①行為主、②行為、③行為の対象はだれか)をとらえる。
- 理解した情報のみメモを取る。理解が難しい箇所は聞くことに集中する。
- 自分で書いたメモを分析し、効率のよい取り方を研究する。同じものを繰り返しメモ取りして比較するといい。
- メモは縦方向にとる。
(日本通訳協会(2007, p. 152)・友寄他 (2020, p. 38)を参考に記載)
【メモの例】
【原文】
今日は私の故郷である天津についてお話ししたいと思います。よろしくお願いします。天津は中国北部にある沿海都市で、首都北京からわずか120キロメートルのところにあります。都市間高速鉄道に乗れば、北京から天津まで30分しかかかりません。天津の名の由来というと、「天」は「天子」の意で、「津」は「港」という意味です。「天津」は「天子の港」、「天子の渡し場」という意味から名づけられたのです。
(キンキン『私の故郷』(国際交流基金『初級からの日本語スピーチ』スピーチ例より抜粋)
【メモの例】
- 左上から斜めに縦方向に記載していきます。トピックが変われば、再度、左上から始めます。こうすることにより、構造をとらえることができます。
- メモでは、「天津」を「天」、「中国」を「中」、「よろしくお願いします」を「☻」、「北京」を(Beijingの)「Bei」など、適宜略語を使っています。
- 【教師】記号化の例を紹介します。
【記号化の例】
- >:より大きい、<:より小さい、=:同じぐらい
- ↑:あがる、↓:下がる
- 😊: うれしい、ありがとうなど
- US:アメリカ
- ×:否定
- ⇒:すなわち
- IF →:仮定
- 強調:アンダーラインを引く
- 【学生】上記以外にも、自分が母語等で使用している記号の例があれば、共有します。
3. 練習
- 【教師】学生のレベルに合ったスピーチの音声を聞かせるか、教師が読み上げます。
- 【学生】音声を聞きながら、メモを取ります。
- 【学生】自分の取ったメモを見ながら、各自、元のスピーチの内容を思い出せるかを確認します。思い出せなかった場合、メモがうまくいかなかった場所をマークしておきます。
- 【学生】ペアやグループで、お互いのメモを共有しながら、工夫したところや難しかったところなどを話し合います。
- 【教師】クラス全体で、話し合いの内容をまとめます。また、うまくメモが取れている例も紹介します。
- 【教師】もう一度、同じ音声を聞かせるか、読み上げます。
- 【学生】もう一度メモを取ります。
- 【学生】自分の1回目のメモと2回目のメモを比較して、改善されているかを確認します。
参考文献
- 友野百枝 ・宮元友之・南津 佳広(2020)『通訳学101』大阪教育図書.
- 日本通訳協会(編)(2007)『英語通訳への道』大修館書店.
- 新崎隆子(2021年12月1日)「日本語教育におけるトランスレーション活動の導入」『日本語教育通信 日本語・日本語教育を研究する 第49回』国際交流基金 https://www.jpf.go.jp/j/project/japanese/teach/tsushin/reserch/202112.html(アクセス日:2023年4月2日)
こんな先生・活動にお勧めです!
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通訳トレーニングで使われているメモ取りの技術を学ぶことで、記憶保持を助けながら、効率よく聞く力を養うことができます。
リスニング力を高めるためにも利用できますし、通訳をする際の準備段階の活動としても取り入れることができます。
スピーチの内容を調節することで、どのレベルでも導入できる活動になっています。初級であれば、クラスメートの短いスピーチをメモを取りながら聞くようにするなどができるでしょう。中上級であれば、日本語能力試験の聴解問題や講義等の内容をメモに取る活動などができます。