アクティビティのねらい・概要
ねらい
このアクティビティでは、通訳トレーニングで導入されているサイト・トランスレーション(sight translation: 順送りの訳)に挑戦します。
この活動を通して、文の構造や意味を理解する力を強化し、訳す力を伸ばすことができます。
概要
目的 |
|
学生の日本語力 | 中級(B1)以上 |
その他の言語力 |
使用する英語の音声が理解できるレベル |
所要時間 |
30分 |
おすすめクラス | 日常で簡単な通訳をする必要のある学生には特におすすめ。 |
手順
1.教師主導のサイト・トランスレーション
- 【教師】①英語のスピーチなどの音声と、②音声の書き起こし原稿を用意します。②の原稿は教師が事前に、意味の固まりごとにスラッシュを入れておきます。また、事前に、チャンクごとの訳の例を準備しておきます。
以下のような例があります。
※音声の内容や量は、学生のレベルや興味に合わせて選びます。
【英語の原文】
I am honored /to be with you today/ at your commencement from one of the finest universities in the world.// I never graduated from college. // Truth be told,/ this is the closest I’ve ever gotten to a college graduation.// Today I want to tell you three stories from my life.// That’s it.// No big deal.// Just three stories.//
【日本語の訳の例】
私は光栄です。/今日皆さんと一緒にいることができて/ 世界でもっとも優秀な大学の卒業式でです。//私は大学を卒業したことがありません。//実のところ/今日が大学卒業に一番近づいた日です。// 今日は、私の人生から3つの話をしたいです。//それだけです。//たいしたことはありません。//3つだけです。//
@stanford (2008/03/08) 『Steve Jobs’ 2005 Stanford Commencement Address』 より(アクセス日:2023年4月5日)
- 【学生】原稿を見て、意味の固まりごとに次々と各自で口頭で訳していきます。きれいな日本語にならなくても、自分の理解に置き換えていきます。
※人数が多いクラスでは、他の人の声が気になることもあるので、イヤホンなどを使ってもいいでしょう。 - 【教師】なるべく次を読んだり、前に戻ったりしないようにして、先を予測しながら訳していくように指導します。
- 【学生】終わったら、他の学生と難しかったところなどを話し合います。
- 【教師】学生の意見をまとめます。また、訳の例を見せて、日本語の意味を確認します。
- 【教師】原稿の音声を流します。音声を意味の固まりごとに一時停止します。
- 【学生】音声を聞きながら、同じように意味の固まりごとに訳をしていきます。
2. 学生主導のサイト・トランスレーション
- 【教師】別の①英語のスピーチなどの音声と、②音声の書き起こし原稿を用意します。事前に、チャンクごとの訳の例を準備しておきます。
- 【学生】自分で意味の固まりごとにスラッシュを入れながら、次々と口頭で訳していきます。
※自分の声を録音してもいいでしょう。 - 【教師】訳の例を配布します。
- 【学生】訳の例と、自分の訳を照らし合わせます。
※録音していた場合は、自分の音声の録音を聞きながら、訳の例と比べます。 - 【教師】原稿の音声を流します。音声を意味の固まりごとに一時停止します。
- 【学生】音声を聞きながら、同じように意味の固まりごとに訳をしていきます。
参考文献
- 日本通訳協会(編)(2007)『英語通訳への道』大修館書店.
- 新崎隆子(2021年12月1日)「日本語教育におけるトランスレーション活動の導入」『日本語教育通信 日本語・日本語教育を研究する 第49回』国際交流基金 https://www.jpf.go.jp/j/project/japanese/teach/tsushin/reserch/202112.html(アクセス日:2023年4月2日)
この活動は、日常的に複言語を使う環境にある学生におすすめです。
日英のように語順が違う場合、長い文になればなるほど、意味理解が難しくなります。
サイト・トランスレーションの活動を通して、意味の単位ごとに理解を積み上げ、文末で文章の理解を完結させるという読解ストラテジーを身に着け、言語間で情報を処理する際のコツを学べます。
また、例文や語彙を調節することによって、どのレベルでも導入可能です。
今回は英語⇒日本語のサイト・トランスレーションの例を紹介しましたが、学生の母語に合わせて、英語以外の言語で実施することもできます。また、日本語⇒英語で行うことも可能です。
一度やり方を説明した後、学生に自習でやってもらうというのもいいと思います。