言語景観書き換えプロジェクト:観光客によりよい景観を考えよう

アクティビティのねらい・概要

ねらい

このアクティビティでは、学生・教師が地域の観光地に訪問し、観光地の言語景観を観察し、観光客によりよい言語景観にするにはどうすればいいかを考えます。

この活動を通して、言語を観察・分析する力や、観光客にとってわかりやすい表示とは何かを考える力を養えます。

概要

目標
  • 観光地の言語景観を分析できる。
  • 観光客の利便性のためによりよい景観が提案できる。
学生の日本語力 中級(B1)以上
その他の言語力 観光地でよく使用されている各言語について、熟知している学生が各1人以上いることが望ましい。
所要時間 5時間
おすすめクラス プロジェクトとして取り入れるのがおすすめ。

手順

ロードマップ

1.言語景観の導入・プロジェクトの提示

  • 【教師】言語景観とは何かを簡単に導入します。

2023年4月現在、以下の動画が紹介の際に利用できます。

  • @Jiro Nishigori 2014年11月20日『Linguistic Landscape, Tokyo – with English Subtitles』 (YouTube)

東京都立大学 日本語教育学教室から動画をダウンロードできます。

言語景観について導入しておきたいポイントとしては以下のようなものがあります。

  • 言語景観の定義(磯野 2020, p. 14より引用)
    • 文字言語であって音声言語ではない
    • 公的な場で不特定多数の読み手に対して発せられるもので、私的なコミュニケーションではない。
    • 自然に、あるいは受動的に視野に入るもので、意識的に読まなければならないものではない。
  • 言語景観の分け方(磯野 2020, p. 4より引用)
    • 公共表示:公共施設、公共利用物にある商用ではない表示(空港・駅・道路・電車・バスタクシー・商業施設内のトイレ表示など)
    • 民間表示:公共施設や街中にある商用表示(店舗や企業の広告)
  • 【教師】以下のプロジェクトの目的や流れを導入します。

観光地に行きます。そして、日本語がわからない(かん)(こう)の立場で、わかりにくい表示を探します。わかりにくい表示を書き換えて(内容の変更や追加・デザインを変更・多言語化など)、観光客にとってよりわかりやすいものにします。

2.予備調査

  • 【学生】その観光地について情報を集めます。観光地の歴史、有名な場所、よく購入されるお土産、観光客の数、観光に訪れる人の内訳などを調べます。
  • 【学生】グループで集めた情報を共有します。

3. 実地調査

  • 【教師・学生】観光地を訪問します。グループに分かれて、日本語ができない人の視点で、街を歩いたり、観光施設の中に入ったりします。わかりにくいと思う表示があれば、写真を撮ります。写真を撮る際は、その表示のみでなく、表示が置かれている周りの環境も合わせて撮影しておくようにします。

4. 分析

  • 【学生】写真を撮ったもののうち、特に問題だと思った表示を3つほど選びます。
  • 【学生】選んだもののうち、観光客の立場から最も問題だと思う表示を一つ選び、以下を考えます。
    • どこにあったか、周りはどんな環境だったか。
    • その表示は、公共表示か、民間表示か。
    • その表示の目的(例:案内する、(けい)(こく)する、注意する、お願いする、宣伝するなど)は何か。
    • その表示は、どのようなモード(絵・イラスト、シンボル、地図、色、レイアウト、フォントなど)が使われているか。どうしてそのような表示にしたと思うか。
    • その表示には、どのような文字(ひらがな、カタカナ、漢字、ローマ字)で書かれているか。どうしてそのような表示にしたと思うか。
    • 何語が使われているか。(複数言語がある場合)どの順番で書かれているか。どうしてそのような表示にしたと思うか。
    • (複数言語がある場合)日本語で書いてあることと他言語で書いてあることと同じか。違う場合はどうしてだと思うか。
    • 誰を対象者(読み手)にして設置された表示か。どうしてそう思うか。
    • どうして観光客にとってわかりにくいと思うのか。
  • 【学生】別の表示についても、同様に分析を行います。

5. よりよい表示の作成

  • 【学生】グループで、絵を入れたり、デザインを変更したり、翻訳をしたりするなどして、わかりにくい表示を書き換えます。その際に、以下を考えるように促します。
    • 表示を観光客のためにわかりやすくするには、どういう言語表現が必要か。
    • (多言語化する場合)何語の表示にするか。言語の順番や位置、大きさはどうするか。内容はすべて同じものにするか。
    • 表示のデザイン(イラスト・色・フォントの種類・大きさなど)や表示を置く場所などで変えなければいけないことはあるか。あったらどうやって変えるか。
    • 表示の対象者(読み手)は観光客だけか。観光客だけでない場合、その人たちにもわかりやすい表示とは何か。
    • 街や観光施設等の雰囲気を壊さない、または雰囲気をさらによくするためには、どのような表示が望ましいか。

4.発表とまとめ

  • グループで、元の表示と代替案を見せて、発表します。元の表示の問題点や、代替案の工夫した点、プロジェクトを通して自分たちが学んだことなどを説明します。

以下は実際に出た工夫した点・学んだことの例です。

参考文献

  • 熊谷由理 (2018) 『言語景観プロジェクト:CCBIへの可能性』「批判的言語教育国際シンポジウム:未来を創ることばの教育をめざして:内容重視の批判的言語教育(Critical Content-Based Instruction: CCBI)のその後」、武蔵野大学、東京、2018年7月1日
  • 阿部祐子・行木瑛子(2019)『産官学連携による多言語化プロジェクトの試み―秋田県内のホテルにおける実践―』「異文化間教育学会第40回大会」、明治大学中野キャンパス、2019年6月
  • 磯野英治(2020)『言語景観から学ぶ日本語』大修館書店

こんな先生・活動にお勧めです!
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言語景観を分析するだけでなく、よりよいものに変えるための提案もできる活動です。教室と教室外をつなぐ活動として使えます。

また、日本国内での実施を前提としていますが、Google Mapのストリートビューなどを使って海外からも実施することができます。

プロジェクトとして、中級以上の学生に取り入れてみるのがおすすめです。