アクティビティのねらい・概要
ねらい
このアクティビティでは、松尾芭蕉の「古池や蛙飛び込む水の音」の俳句を使って、日本語の数の面白さを楽しみます。
また、日本語・英語の違いや、俳句を翻訳する楽しさ・難しさも感じることができます。
概要
目標 |
|
学生の日本語力 | 初級後半(A2)以上 |
その他の言語力 |
俳句の英訳が理解できるレベル(話せなくてOK) |
所要時間 |
30分 |
おすすめクラス | クラスで文化的要素を取り入れてみたいときにおすすめ! |
手順
1.導入
- 【教師】俳句や松尾芭蕉について簡単に説明します。
以下は紹介する内容の例です。
- 俳句は「五・七・五」のリズムでつくる。季語を入れることが必要。
- 松尾芭蕉は、1644年に三重県伊賀市(当時は伊賀国)で生まれる。18歳のときに、俳句を詠むのがうまい藤原良忠の元で奉公をはじめ、俳句の修行をはじめる。藤原良忠が亡くなったあと、24歳だった芭蕉は俳人として生きていくことにする。その後、江戸に上京して、有名になるが、俗世に嫌になり、旅をしながら俳句を詠むことにする。奥州・北陸の旅を記した『奥の細道』が有名。50歳で亡くなる。
- 【教師】芭蕉の句「古池や蛙(かわず)飛びこむ水の音」を紹介し、意味を説明します。
以下は説明の例です。
- 語彙
- 古池(ふるいけ)=古い池(old/ancient pond)
- や=驚きや感動を表す(expressing suprise/deep emotion “Wow”, “Oh”)
- 蛙(かわず)=かえる(frog)
- 飛び込む=勢いよく入る(jump, leap, dive)
- 季語=春(蛙が春を表している)
2. 俳句についてのディスカッション
- 【教師】以下についてディスカッションさせます。
- この俳句を聞いて、どういう気持ちになったか。
- この俳句を通して松尾芭蕉が伝えたいことは何か。
- 蛙は一匹だと思うか、複数だと思うか。なぜそう思ったか。
- 【教師】クラス全体で話し合いの内容を共有し、意見をまとめます。
- 【教師】意見をまとめたあと、③の単数・複数の質問について、以下の母語話者の大学生対象の結果を紹介し、クラスの意見と比較します。
【母語話者の大学生58名に「古池や蛙(かわず)飛びこむ水の音」の「蛙」は何匹だと思うかと聞いた結果】
【一匹と答えた学生の理由】
- 蛙が複数いると風流な感じがしないから。
- 一匹の蛙が水に音を立てながら飛び込むことで古池の静かさを表現していると思うから。
- 頭の中で映像を想像した時、パッと浮かんだのがパチャンという音だったから。
- 静かな池で1回だけポチャンと音が鳴るイメージだからです。
- 静かな古池で蛙が一匹だけ飛び込んで、その一瞬の音をしみじみと聞いているんだろうな、と感じたから。
【複数と答えた学生の理由の例】
- 池に蛙が1匹だけいる光景は見たことないから。
- 1匹だけだと、その音がカエルが飛び込んだ音だということに気づけないと思うから、複数だと思う。
2023年1月 沖縄大学の学生を対象に調査
- 【教師】日本語では名詞の単数・複数に無頓着であることを指摘します。
※なお、「古池や」の俳句には、俳画がのこっています。俳画の絵には、一匹の蛙のみが描かれていることから推察すると、松尾芭蕉は一匹の蛙を古池で見た可能性が十分にあるそうです(牧野 2018)。
3. 翻訳についてのディスカッション
- 【教師】英語の例を三つ提示し、どの訳がいいか、その理由はなぜかを話し合わせます(訳は牧野2018, p. 93より引用)。
(※もし時間があれば、先に学生達に自分で翻訳を考えさせてもいいでしょう。)
- The ancient pond/ a frog leaps in /the sound of water (ドナルド・キーン訳)
- Old pond/frogs jump in /sound of water (ラフカディオ・ハーン訳)
- Pond/frog/ plop!(ジェームス・カーカップ訳)
- 【学生】ペアで話した後、クラス全体で意見を共有します。
- 【教師】学生の意見をまとめます。
学生の意見の例としては以下のようなものがあります。
【1の訳がいいという学生の意見】
- 意味が分かりやすく情景が浮かびやすいから。
- 最初に聞いた時にイメージが一番近いから。
【2の訳がいいという学生の意見】
- 長すぎず短すぎず、言いたいことが伝わると思ったから。
- この翻訳が俳句のリズムに合ってると思った。
【3の訳がいいという学生の意見】
- 簡潔でわかりやすいと思う。
- リズムにあっていると思った。
参考文献
- 牧野成一(2018)『日本語を翻訳するということー失われるもの、残るもの』中央公論新社
こんな先生・活動にお勧めです!
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俳句を楽しむとともに、日本語の数についても考えることのできる活動になっています。クラスで俳句を取り入れたいというときに、一つの活動の選択肢として取り入れてみてはいかがでしょうか。
中級以上がおすすめですが、教師・学生ともにある程度の英語力を共有しており、教師に英語で説明する力がある場合は、初級レベルでも取り入れられます。