女ことばを通して言葉選びについて考えよう

アクティビティのねらい・概要

ねらい

このアクティビティでは、海外女優のインタビューを翻訳します。

メディアで使用されている女ことばを分析し、翻訳活動を通して自分のジェンダー表現について内省できる活動になっています。

概要

目標
  • 言語に内包されたジェンダー観について分析できる。
  • 自身のことば選びを振り返りながら、海外の女優のインタビューを翻訳できる。
学生の日本語力 中級後半(B2)以上
その他の言語力 課題で使用する英語が理解できるレベル(話せなくてOK)
所要時間 2時間
おすすめクラス 大学生・成年向けの語学クラスで、考えさせるタスクとして取り入れるのがおすすめ!

手順

ロードマップ

1.事前準備

  • 【教師】下記「3. 女ことばの分析①」の下準備として、以下が含まれるウェブサイトを探します。 
    • 海外の女優・歌手等のインタビューの翻訳記事2つ(※女ことばを使って翻訳しているもの)
    • 日本の女優・歌手等の日本語のインタビュー記事2つ        

※これは、①女ことばは翻訳でよく現れること、②日本語で行われたインタビューでは女ことばが使用されていないことを理解してもらうためのものです。

2023年3月現在、上記の条件を満たすウェブサイトには以下があります。

  • 【教師】下記「4. 女ことばの分析②」の下準備として、同じ女優・歌手などの翻訳で、女ことばが使われているものと使われていないものを見つけておきます。
    ※これは、①常に女ことばで翻訳されるわけではないこと、②女ことばの使用の有無によって読み手の印象も変わることを理解してもらうためのものです。

2. ウォーミングアップ

  • 【教師】国際交流基金関西国際センター『アニメ・マンガの日本語』などを使って、女ことばと言われるものの特徴(終助詞の「わ」や「の」など)を紹介します。
  • 【学生】 女ことばを使うキャラクターからどのような印象を受けるかペアと話します。
  • 【教師】 現在、女ことばが使われている状況を説明します。以下はスライドの例です。
  • 【教師】 そのほか、ドラマやアニメ、マンガ、小説で、女ことばを使うキャラクターのセリフを紹介し、受ける印象について考えさせます。

3. 女ことばの分析①:翻訳での女ことばの使用

  • 1. の事前準備で見つけたウェブサイト(シネマトゥデイ等)がどんなサイトかについてグループで話し合います。知らない場合、その場で調べます。 
  • 【学生】4人のインタビュー記事で終助詞(わ・の・よ・ね)の数を数えます。
    ※このアクティビティのポイントは、翻訳記事では女ことばの特徴の一つである終助詞「わ」「の」が頻出していることに気づいてもらうことです。
  • 【学生】 表を見て、考えたことを話し合います。
  1. 何が分かりましたか。
  2. どうしてだと思いますか。
  3. 女ことばをどうやって英語やそのほかの自分の知っている言葉に翻訳しますか。

4. 女ことばの分析②:多様な翻訳

  • 【教師】1. の事前準備で見つけた同じ女優・歌手(レディ・ガガ等)が複数のメディア媒体でどう日本語に訳されているかを紹介します。

【学生】翻訳(特に女ことばの使用の有無)による印象の違いについて話し合います。

5. タスクの提示:フリーランス翻訳家としてインタビュー記事を翻訳する

  • 【教師】以下のタスクを提示します。

あなたはフリーランスの翻訳家で、最近シネマトゥデイと働き始めました。シネマトゥデイとはいい関係を持ちたいです。エマ・ワトソンのBeauty and Beastについてのインタビューを翻訳するように頼まれました。

※タスクは一例です。課題は学生のレベルや興味関心、「3. 女ことばの分析」で使用したウェブサイトによって変更可です。

今回のタスクで使用したインタビュービデオです。

※動画でなくても、英語のインタビュー記事で代用することも可能です。

  • 【学生】 ビデオを見て、考えたことを話し合います。
  1. エマ・ワトソンはどんな人ですか。
  2. みなさんの翻訳の目的は何ですか。そのためにどう翻訳しなければなりませんか。
  3. みなさんの翻訳の読み手は誰ですか。そのためにどう翻訳しなければなりませんか。
  4. エマ・ワトソンは、どんなジェスチャーや声のトーンを使っていますか。それらをどう翻訳しますか。
  5. ビデオ(音声)から記事(書き言葉)にするとき、気をつけなければいけないことは何ですか。
  • 【学生】 実際にインタビューを翻訳します。
    ※学生のレベルによって、長さや使用する部分を変更します。初級の学生だったら、一文のみでもいいでしょう。クラスでは一部を試訳し、残りは宿題にすることもできます。

引用:Totally Emma Watson (2016年11月15日)(0:35~1:40)

  • 【学生】 翻訳して考えたことを話し合います。
  1. 女ことばで翻訳しますか。どうしてですか。
  2. もし女ことばを使う場合、どのぐらい使いますか。
  3. 話し言葉をどうやって翻訳しますか。

以下は、実際に話し合いで生徒から出た意見の例です。

5. 宿題

  • 【教師】翻訳課題を完成させ、翻訳タスクに関するコメンタリーの提出を宿題とします。

※自分の翻訳としてその表現を使った背景も書きます。翻訳するだけでなく理由も書かせることで、ことばの選択について考えさせることができます。

参考文献

  • Gyogi, E. (2019). Critical literacy in beginner-level Japanese-language classrooms. In P. Clements, A. Krause, & P. Bennett (Eds.), Diversity and inclusion. Tokyo: JALT, 229-234.
  • 中村桃子 (2007) 『「女ことば」はつくられる』ひつじ書房.
  • 中村桃子 (2013) 『翻訳がつくる日本語: ヒロインは「女ことば」を話し続ける』白澤社.

こんな先生・活動にお勧めです!
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学生に「考えるタスク」を与えたいと考えている先生にお勧めです。インタビュー記事の翻訳活動を通して自分の言語観・クリティカルリテラシーについて考えを深めることができます。また今後自分が日本語を話すとき、なぜその話し方をするか、しない選択をするのか内省することもできます。

訳された日本語を見たとき、そのまま受け取るのではなく、インタビュイーの人物像が反映されているのかにも思考を巡らせることができます。中級後半を対象にしていますが、英語等、学生の母語を使用することで、日本語が初級の学生も取り組むことができるアクティビティです。